脱幸福の試み、死生の九訓

Ⅰ.生に意味はない。ただ与えられた「時間」である
Ⅱ.故に楽しいことや幸せであることは無意味である
Ⅲ.魂は万物のイデアを知る
Ⅳ.美は唯一の、有意味に傾かない光である
Ⅴ.美は善と無関係である、美の対極は醜ではなく滑稽である

Ⅵ.ヒトは動物であり、人類は社会的な足跡であり、人間存在は感官である
Ⅶ.愛には、相手の知を愛する敬愛、肉体を愛する性愛、魂を愛する愛の三別があり、それらは階梯ではない
Ⅷ.識るべきものを識り、感ずべきを感じ、味わうべきを味わった時、「時間」は終わる
Ⅸ.死は唯一の、永遠である

洗浄を免れる郷愁

 精神が毛羽立っている夜は居間で寝る。然ふ云う時の寝室は大抵日中の行いに対する懲罰室となるからである。閉塞的な自己対話強迫の空間に弱った心は耐えられない。家屋の中で最も開放的な性質を備えているのが居間であり、私は其処に救いを求めるのである。寝台という断崖に囲まれた孤島でなく、曖昧な境界を超えて幾らでも延長していく基底の上にぎこちなく寝転がる。